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ー1、ビーチの空が眩しい午後―
――今日こそ決めるぞ!
佐々章之は朝から繰り返している言葉をもう一度胸の内で呟いた。
前を歩く5年越しの恋人玲奈の美しい背中を見つめる目元は、無理なスケジュールを組んでこの日の休暇を取ったために赤らんでいる。
院長の鶴の一声で、大掛かりな人員補充を行った芦屋総合病院は、以前の殺人的な忙しさからは解放されたが、人命を預かる救急センターは相変わらずの煩雑さだ。
若手の優秀な外科医として信頼を得ている佐々は、何かと院長の右腕として働かせられるので、彼女が、実情を知っている長年の恋人とは言え、約束したデートをすっぽかすのは日常茶飯事になっていた。
いつも強気な玲奈が、ここのところ随分心もとない目をしているのに気づき、佐々は胸が痛かった。
働き盛りの佐々は28歳。
同い年の彼女は、当時インターンとして勤めていた大学病院で知り合った。
受付事務をしていた玲奈の美貌は高嶺の花だったが、常に一歩引いたような清楚さが、佐々の気持ちをたまらなく惹き寄せたのだ。
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