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 母が一番楽しみにしていた宿は、海の見える丘にある。  和風旅館でありながら、どこか南国風でもあり、落ち着いた雰囲気の中にも別世界へ迷い込んだような隠れ家風だ。  離れの2階屋は、1階にリビングと寝室があり、2階に露天風呂と、ここにも寝室がある。  贅沢で広々とした部屋だ。  母は一応、部屋を分ける気遣いをしたらしい。  いや、明を独占したがるあの母親だ。  道隆を一人寝させるつもりだったかもしれない。  それも今となっては、関係ないとばかりに、道隆は明を片時も離さない。  母親と一緒の家族旅行も楽しみだったけど、こうして道隆と24時間一緒にいられるのは、明も嬉しくてたまらない。  道隆も仕事を思いっきり忘れている。  日頃、働き過ぎている疲れを癒して欲しいと、願うばかりだ。  デッキにある露天ぶろから、そのまま飛び込めそうな海が目の前にある。  英虞湾に沈む夕日が、息を飲むほどに美しい。  肩まで沈んでいろと言われて、明は湯船から頭だけを出して空を見上げた。  白い湯気がほわほわと顔を覆って頬が熱い。 「まだ出ちゃだめ?」 「だめ」  笑いながら言う道隆は、張り出した肩と胸板を惜しげもなく晒している。  ちょっとずるい。  カッコ良すぎてずるい。
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