◇海の見えるホテルのカフェ◇

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私、庄野由紀子、23歳。 容姿にはかなり自信アリ。 学生時代から合コンの女王としてモテまくりだったけど、先輩から紹介されてバイトに入ったこのホテルで見た現実は、しがない弁護士も、ただの町医者も、かすんで見えるものだった。 華やかで、それでいて落ち着いていて、本物の紳士淑女がゆとりの時間を刻んでいる。 そんな世界に、この春私は難関を突破して正式に就職した。 清楚な黒いワンピースに白いエプロンをして、私の所属はカフェテリア。 爽やかな風の抜けるテラスにふさわしい爽やかな笑顔で、休息されるお客様をお迎えする。 優雅な礼儀作法をみっちり仕込まれた私に、何人かの殿方が声をかけてくれるけれど、やんわりとお断りをしている。 好みの問題だとかは贅沢かもしれないが、実は、数多くの女性スタッフが目の色を変えて狙っている男性、おそらく独身……、が一人いるからだ。 フロントは口が堅いので素性は明らかではない。 だが、T長者や成金のようないやらしさがなく、物腰がいちいち洗練されていて、歩いているだけでため息が出そうな良い男なのだ。
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