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事件は真夏に起こった。
芦屋様が初めて同行者を連れて来られたのだ。
それも目を見張るような美少女を!
と、思ったのは一瞬でよく見たら男の子だった。
それはそれで充分にインパクトがあり、女性スタッフの間では、ざわざわと動揺が走ったのだが、そんなことは絶対に悟られてはいけない。
無理をすれば親子?に、見えなくもないが、夏休みの甥っ子を連れてきた……ってところで落ち着いた。
彼がチェックインをしている間、その子はキョロキョロとあたりを見回し、こう言う場所に慣れていないのか、不安そうな表情がなんともいえず可愛くて、他のお客様の視線を集めている。
このホテルのコンセプトは「大人の隠れ家」。
そのために、12歳以下の子供は基本的に受け入れない。
落ち着いた大人の客達の中で、まだ学生の少年は嫌でも目だつ。
細身の体。
動くたびにさらさらと揺れる柔らかそうな髪。
全体的に色素の薄い雰囲気に、少女と見紛う顔。
エントランスの巨大なアレンジの花を背後にした、その透明感のある佇まいに、フロントを行き交う人たちは思わず足を止める。
視線を感じたのか恥かしそうに俯いているのも可憐に見えた。
チェックインを済ませた彼は「大丈夫だよ」というように、男の子の肩をふわりと抱いて客室へ消えた。
あんな子供にまで手を抜かないでエスコートをするなんて、益々素敵な人。
にこやかなポーカーフェイスを崩さないフロントマン達でさえ、チラチラと横目で後を追っていた。
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