眠り姫の憂鬱

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

眠り姫の憂鬱

 眠るために重要な音ってある。赤ちゃんにとっては心臓の音がそう。通勤時間に寝ている大人が多いのも、バスや電車の揺れる音が会社員を眠らせる音だからだと思う。  高校の先生のつまらなそうな声とか、チョークが黒板の上で少しずつはじける音とか、休み時間に誰かに蹴られた椅子とか、それが床にぶつかる音とかが、私にとってのそういう音だった。いつの間にか身体を奪われて、机に突っ伏していることがある。途中で誰かに身体をゆすって起こされるみたいな。こういうのが普通だから、私は女子高生という生き物なのだと思う。  女子高生の毎日は怠惰で儚いのだ。いつも変わらないような毎日が夏休みという言葉によって、たった一日のうちに変わってしまう。今までの日常さようなら。これからの日常こんにちは。あんなにやることの多い日々も、終業式の日を過ぎれば、ちゃっかり何もやることがなくなっているのだ。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!