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だが、次の瞬間思ってもいない事が起こった。
顔の側に私より少し年のいったサラリーマン風の男が立っていた。
勿論、顔に気づいている様子は無い。
顔はまるで水中を進むようにホームのアスファルトの中を移動していき、男の斜め後ろで止まり満面の笑みを浮かべた。
(笑ってる?)
いつの間にか顔は顎の下まで姿を現し、まるでそこに生首でも生えたかに見える。
『もうまもなく、3番線ホームに電車が参ります』
ホームに再度駅員のアナウンスが響くと、気がつけば首から肩、胸から足と……生首は全身を現していた。
恐らくアレは女だ。恐らくというのにはワケがある、女の体は所々欠損しており特に足は白い骨にピンクの肉片がかろうじて巻き付いているだけだ。
それから目を離せずにいた次の瞬間──
女が中年の男の背中をドンっと勢いよく押した。押された男は足を滑らせホームへと落ちていき、そこへ運悪く電車が入って来たのだ。
周囲が騒ぎはじめた時、私はただその場で動けずにいた。女の姿はもうどこにもなかった。
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