プロローグ

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プロローグ

「せっかくの休みなのに、もっとゆっくり寝てたかったんだけどなぁ」  不貞腐れながら文句を口にする。 「そんなこと云うなよ。ホント、感謝してるから」  もう一人が困った顔で笑いながら、相手の肩に手を掛けて仏頂面のご機嫌を取ろうと懸命だった。 「まぁ、仕方ないか。俺も助けてもらってるし」  諦め顔を笑顔に変えて歩調を合わせて寄り添う。あどけなさの残る顔は、黒縁の伊達眼鏡で隠されていたが、フレームから覗く瞳はぱっちりとしていて可愛らしさを印象付ける。項を覆うくらい伸びた髪が、さらりと揺れ、中性的な雰囲気を醸し出していた。恐らく、タレント業界関係の人間が見たら声を掛けたくなるかもしれない。  一方、傍らにはスポーツマンタイプで短めの髪に浅黒い顔立ち。幼年期はおそらく少しやんちゃだったかもしれない的な雰囲気が滲み出ていてる。見た目に対照的な二人は互いにないものを持っている同士で、それを補うようにつり合っていた。 「ミゾ、今度なんか奢るよ」  ミゾこと、溝口歩(みぞぐちあゆむ)は二十歳。華奢な体つきで、身長が思いのほか伸びず本人は真剣に大きくなる方法を考えている。可愛い顔に低身長という見かけだけで、良く女の子と間違われることが唯一の悩みだった。 「いいよ。そういう気の遣われ方は嫌だから」 「そっか。じゃ、後で飲み行くから付き合って」  照れくさそうに、頭を掻きながら歩を見下ろす。頭一つ分背の高い彼は、女性にモテそうな面持ちの木下利通(きのしたとしみち)。歩より一つ年上で 同じ大学の先輩。
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