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他の少年も名前を名乗った。
彼らは毎夜のように会っては、この溜まり場で過ごすらしい。
行く場所ないなら来いよという龍の言葉にアキラは気まぐれで足を運ぶようになった。
気やすい奴ばかりでアキラが何の躊躇いもなく来れるようになるのに、時間は掛からなかった。
彼らは少しだけ家族のことを話してくれた。
龍は母親と妹の三人暮らしなこと。父親とは離婚してから一度も会っていないこと。心底嫌いだから会いたくもないと思っていること。母と妹とは嫌ってるわけではないが仲がいいわけでもないこと。
琥珀は両親が元暴走族なこと、仲のいい三つ下の弟がいること。『麒琥』の初代総長なこと。
聖は父親と二人暮らしなこと、夜遅くに帰ってくるためいつも出歩いていること、『鳳龍』の初代副総長なこと。
様々な人間の様々な事情を聞いた。
全員いろんな事情はあれど、家に居場所がないと感じていることは同じだった。その中でもアキラはマシな方だと知る。
そうして彼らと出会ってから半年が経った頃、鳳龍はもう地元では有名になるほど名が広がった。
ふと、龍がアキラに尋ねる。
「なぁ、アキラ」
「何だ?」
「お前よくさ、思い出すように遠く見てるけど、誰のこと考えてんだ?」
「は?」
何のことだと目を丸くしてアキラは言う。龍はまさかと目を見開いて尋ねる。
「お前、自覚ねぇのか?」
龍達と騒ぎ合ってても、一人で歩いている時も、ふとミカのことを考えている。何かを見る度にミカを思い出す。食べ物を見ればミカの好きだった物だとか、勉強道具を見ればあいつの好きな教科は何だろうとか、楽しそうな親子を見ればお母さんと仲直りできただろうかとか。何を見てもミカのことを考えていた。いたのだが、龍に言われるまで気が付かなかった。
そう言われるほど回数が多かったのだろうか。
「……そんなに考えてたか?俺」
「うん」
あたり前のように頷かれ、内心でマジかと頭を抱える。
「で、誰のこと考えてんだ?」
龍はアキラがよく考える相手に興味津々に目を光らせ身を乗り出してくる。鳳龍の他のメンバーから好きな人を聞き出す瞳と同じ目だ。
「別に」とそっぽを向いて逃げ出そうとしたアキラの肩を掴む。逃がす気は毛頭ないらしい。
こうなると白状した方が早いことは、半年の付き合いだがもう知ってる。
アキラが渋々口を開くと、龍はアキラの肩から手を離した。
「昔会ってよく遊んでた女の子のことだよ。
ただ何も言えずにこっちに来たから、何してるだろなって考えてただけだ」
「へ〜女の子。名前は?」
「知ってどうすんだよ。というか教える気もねぇぞ」
「どんな子だったんだ?好きなのか?」
からかうようなニヤニヤとした笑みを浮かばせる龍に、今度はなぜそうなるとアキラが顔をしかめる。
「何言ってんだ。妹みてぇな奴だよ。
危なかっしくて、いつも一人で泣いてて、辛いことも全部一人で抱え込んで、俺が見てないといけないような奴だから。
…………ああ、でも初めて会った時は強い奴だなって思ったな」
初めて会った時だけじゃない。何回も、何回も、強い奴だと思った。何度も、何度も、あの背に憧れた。
龍は、からかう顔をやめて真面目な顔で尋ねた。
「……どんな風に?」
「………泣きそうな目をしてるのに惹き付けられるほど綺麗な瞳をしてたり、今にも消えてしまいそうな儚い背中なのに、しゃんと伸びてて逞しいと思ったり。
年下だけど年下とは思えないくらい強い奴だった…」
「…大切な子だったんだな」
龍が感慨深くこぼす。アキラはそれに即答する。
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