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「お前、何歳だ?」
少し歩いて龍がアキラに質問する。
「…中一」
「何だ同い歳か。
力強ぇから年上かと思った」
「……お前も、いつも出歩いてんのか?」
「家が心地いい場所なら出歩かねぇよ」
龍はそう答え、確かにとアキラは納得する。そして、そこに関しては一緒なのだと理解した。
それはつまり彼も家には居場所がないということ。家族の中に自身の居場所がないと感じているということ。
チラリとアキラを見やった龍は正面に視線を戻す。そして嫌ってるわけではないと訂正するように続けた。
「別に仲が悪ぃわけじゃねぇけどな。
ただ、家族と思うには抵抗がある」
そう呟く龍の瞳はどこか遠くを見るようだった。優しげで、寂しげで、後悔しているような、泣き出す前の子供のような瞳をする。
彼には彼の事情とそれに対して思う感情がある。それを二回しか会っていないのに尋ねるのは野暮だろう。
「でも、育ててくれてることには感謝してる」
龍はそう続けた。そこはアキラより大人だった。
出歩くことが反抗であり、売られたケンカを毎回買っていることもただの憂さ晴らしだとアキラは理解している。
帰るべき家だった場所に帰りたいと子供がただ駄々を捏ねているだけだと。
「やっぱ似てるな」
龍が急にぼやくように言った。
「え?」
「お前はアイツによく似てる…」
「アイツ?」
訝しげな表情をしたアキラに龍は誰のことかは教えなかった。
誰を思い出しているのか分からなくてもその瞳は優しかった。優しくて何かを思いつめているように見えた。
「いつも必死に何かを求めてる瞳。
でも、お前の瞳はそれを諦めた瞳をしてる。
似てるけど全然違ぇな。アイツの方が断然強い。
アイツはいつも諦めなかったから」
龍はそう言ってから、もう『アイツ』の話はしなかった。ただ声音から大切な存在なのだろうとは思った。
強い奴なら自分も知ってると、アキラはふと思い出す。
四年前に出会った小さくて大きい背中を。儚くて強い女の子を。
あいつは今、何をしているだろう。勝手にいなくなった自分を怒っているかもしれない。また一人で泣いているだろうか。
考えないようにしていたのに、どうしようもなく胸が乾く。
今すぐあいつの所に行きたい。あいつに会いたい───。
歩いて三十分は経っただろうか。
小さな町工場のような場所に着き、外にある階段を上がる。龍曰く、この前見たメンバー達の溜まり場らしい。
ドアを開けるとそのメンバー達がいた。
「あ、やっと来た。
遅いよ、龍」
メンバーの中でただ一人だった少女がそう言った。
「あれ?その子、この前の」
「会ったから連れて来た。
アキラ、こいつは『城崎琥珀』。メンバーの中で唯一の女子だ」
「初めまして。私、『城崎琥珀』」
少女はそう言って微笑んだ。
人付き合いが上手そうで、ショートの髪が似合う子だった。
「あなたの名前は?」
「『神津アキラ』」
「ああ、神津組の若頭って噂されてたのあなただったんだ」
彼女はアキラが神津組の人間であることには、さして気にならないようだった。
「よろしくね」
琥珀はそう続け手を差し出してきた。その手を恐る恐るながらも握り返す。
「神津組の若頭は高校生って聞いてたのに、まさか同い年だったとはな。
噂はアテになんねぇや」
そう言った少年の名は『久遠聖』といった。
彼も同い年だった。
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