家族の絵

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「これ、何が描いてあるの?」  四才の娘が描いた絵を見て、私は思わず訊ねた。  幼稚園で描いたクレヨン画だ。「家族」をテーマに描かれたものを、娘のミカが持ち帰って私に見せてくれた。 「これ、ミカなの。これね、お母さん。これがね、お父さん。これがね、おじいちゃんとおばあちゃん」  娘に教えてもらわなければ、識別できなかったのには理由がある。  真っ黒なのだ。  娘の絵は全面が黒一色で塗りつぶされていた。赤や黄などの他の色は一切使われていない。  いや、よく見れば同じ黒でも濃淡がつけられていて、下から上に向かって徐々に色が濃くなっており、下部はダークグレーと言える色合いであった。  その闇の中に、娘が筆圧を強くして描いたであろう大小の五つの人影があった。  これが、娘の描いた「家族」なのだ。  私はこの絵を不気味に思い、動揺してしまった。娘の精神状態についてあれこれと心配して、然るべき医療的処置を受けさせるかどうかまで考えが飛んでいった。  なにせ娘は普段から明るい性格で、絵を描くにも明るい色を好むため、今回も色鮮やかな家族の絵を見せてくれるものと思っていたのだ。すっかり面食らってしまった。
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