序説

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序説

 私の人生が変わったのは、それが始まりだった。私、宮坂澪は、小さな製薬会社で営業の仕事をしていた。  私の故郷は信州。信州の大学を卒業し、東京に上京してきた社会人一年生。まだまだ新入社員だ。  私の住まいは東京都北区。東京北の玄関口と言われている赤羽が、最寄りの駅だ。埼京線沿線で、一人暮らししたい街として近年では人気の街だ。治安も良いし、交通の便も良い。都内では家賃は安い部類に入る地域。  厳しく暑い夏が過ぎて行き、秋の気配が少しづつ進み始めた。風も柔らかくなり、空は水色で澄み切った色。ススキも穂を揺らす。  この季節が嫌いだった。この季節から少しづつ寒くなり始めるからだ。  今日は仕事で、一件も契約が取れなかった。  ため息をついていると、携帯電話が鳴った。部長からの電話。仕方なく受話器を耳に当てる。 「はい、はい。今、向かっている所です」  今、私は車の中。外回りの最中で、会社の車を運転中だった。部長から早く帰って来いと、催促の電話。電話を切った直後、いきなり拡声が背後から聞こえた。 『そこの、トヨタのビッツ、練馬ナンバー、〇〇ー〇〇停まって下さい』 「えっ! 何?」  心臓も肩も跳ね上がった。ソッとバックミラーを見る。 「やだ! 白バイじゃん!」
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