652人が本棚に入れています
本棚に追加
序説
私の人生が変わったのは、それが始まりだった。私、宮坂澪は、小さな製薬会社で営業の仕事をしていた。
私の故郷は信州。信州の大学を卒業し、東京に上京してきた社会人一年生。まだまだ新入社員だ。
私の住まいは東京都北区。東京北の玄関口と言われている赤羽が、最寄りの駅だ。埼京線沿線で、一人暮らししたい街として近年では人気の街だ。治安も良いし、交通の便も良い。都内では家賃は安い部類に入る地域。
厳しく暑い夏が過ぎて行き、秋の気配が少しづつ進み始めた。風も柔らかくなり、空は水色で澄み切った色。ススキも穂を揺らす。
この季節が嫌いだった。この季節から少しづつ寒くなり始めるからだ。
今日は仕事で、一件も契約が取れなかった。
ため息をついていると、携帯電話が鳴った。部長からの電話。仕方なく受話器を耳に当てる。
「はい、はい。今、向かっている所です」
今、私は車の中。外回りの最中で、会社の車を運転中だった。部長から早く帰って来いと、催促の電話。電話を切った直後、いきなり拡声が背後から聞こえた。
『そこの、トヨタのビッツ、練馬ナンバー、〇〇ー〇〇停まって下さい』
「えっ! 何?」
心臓も肩も跳ね上がった。ソッとバックミラーを見る。
「やだ! 白バイじゃん!」
最初のコメントを投稿しよう!