序説

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 右側のサイドミラーには、焦っている私が見えた。髪はセミロングで、少しだけ二重。顔はやや大きいのが私の欠点だと思っている。自分の顔なんて、今、見たくない。  ついつい怯えた表情で、その白バイ隊員に視線を遣る。 (あ、そうだ。運転中、携帯電話で話しちゃ駄目だったんだ!)  今になって思い出す。仕事とはいえ、運転中の携帯電話使用は、絶対タブー。  私は急いでいた。切符を切られるのは百も承知だ。ダッシュボードから車検証と、そして助手席に置いてある私の赤いバッグから運転免許証を取り出し、お巡りさんに手渡した。 「ごめんなさい!」  私は咄嗟に謝った。  王子様顔のイケメン白バイ隊員は「仕事中ですか?」と私の恰好を見た。  今日の私のファッションはチャコールグレーのパンツスーツ。仕事の恰好だと察知したらしい。 「はい……製薬会社の営業の仕事をしてまして」
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