序説

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 不安げな顔で部長の前に集まる社員たち。でも、意を決したように硬い表情の社員もいた。私はクエスチョンマークを頭に浮かべながらも、同じように部長の前に立つ。 「Q製薬は倒産する事になるそうだ」  頭を鈍器で殴られた気分だった。私は、呆然と立ち尽くす。周囲の社員らは、どよめいた。小さな部屋は、ざわめきで満ちてしまった。いきなりの倒産と言う訳ではなく、そういう兆しは前々からあったらしい。 ただ、私は知らされていなかったので、知らなかった。  今日、個人開業医のドクターに薬を進めに行っても、いや、要らないと、苦笑いが返って来るばかりだった。その理由が今になってやっと理解する。  うちの会社は小さな会社。  それでも東京に就職したかった私は、唯一内定が取れた事に大喜びし、この会社に決定したのに。 (明日からどうしよう……)  社長が事業を広めた事で失敗し、倒産する事になってしまったらしい。 「皆さんに、退職金として五か月分の給料が支給されるそうです」  部長の説明は、私の心の慰めにならなかった。五か月分貰えたとしても、次の職が決まらなかったらその後は……。  考えただけで最悪である。狭いオフィスは喧騒に満ちた。
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