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「たとえば、部屋にクローゼットがあるんですが、その隙間からジロリと見られているような感じです。視線に気づいてからはどこにいても見られています。家の中にいればドアの隙間や家具の隙間から、外にいるときにはビルとビル、家と家の間から常に視線を感じるんです。周りに何もない草原にいても、草と土の間とか、とにかく少しでも隙間があればそこから覗かれているんです」
「姿は見えないのに、なぜ女だと」
Oさんの顔が急に青ざめた。
「聞きますか?」
「はい。聞かせてください」
Oさんは机に両肘を立てて手を組み、その上に額を乗せた。
「女が少しずつ姿を見せるんです」
話す声が震えている。声だけではない。手も、それを支える腕も震えた。
「髪の長い女だそうです。最初は手から、少しずつ少しずつ体全体が見えていって、その顔が見えたときに……」
Oさんは口を閉ざした。よほど言いにくいことなのか、上向きにこちらの様子をちらちらとうかがっている。Oさんは手を膝の上に乗せ、しっかりとこちらの目を見て口を開いた。
「その顔がはっきりと見えたときにその人は死ぬんです。そして、ここまで話を聞いてしまうとその人も呪われます」
「え」
これは他言無用ですよーーOさんの最初の言葉が頭に浮かんだ。
背中から禍々しい視線を感じる。……あなたは、大丈夫です……か?
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