まずは前世の話を少々

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あなたは自分が死ぬ前の記憶ってある? 僕はあるよ。すごくよく覚えてる。 ああ、そうだよ。 僕はね、この世界とは全く異なる、いわゆる[異世界]と呼ばれる世界からやってきたんだ。 生前の世界ってどんな所かって? まあ、この世界に暮らすあなたにも分かりやすく説明すると…… まず、石灰や油の混合物で出来た街道の上を油を食べる鉄の馬車が走っていて、空一面には電流の走る大きなクモの巣が張り巡らされている。 更に上空には人を乗せて世界中を飛翔する鋼鉄のワイバーンが飛んでいて、中には地上に火の雨を降らせるような種類もいるらしい。 それから、都市部では石灰で出来た塔がいくつもいくつも乱雑に建ち並んでいて、都市で生活する人々は四角い箱状のモノに乗ってその塔の上を、あるいは複雑にいりくんだ地下迷宮の中を移動している。 あと、その世界で暮らす人々は金属で出来たお札のようなモノを持っている。お札の面をトントンと叩くと遠くの人と会話が出来たり音楽が鳴ったり明日の天気が分かったり異国の郷土料理のレシピが分かったり女の裸が見えたりする超便利アイテムだ。 他に変わった所といえば……そうそう! こっちの世界のお月様は緑色をしていると聞いたけれど、生前の世界では月は黄色くて1日ごとにコロコロ形が変わっていくの。 まんまる月夜は30日に一回だけだから、昔の人は変わっていく月の形を参考にして暦を作っていたそうだよ。 ああ、そうだ。 月といえば前世の世界では月に登って月面に旗を差す仕事をしている人達がいるんだけれど、中には月まで登れない奴が居て、仕方がないからその辺りの砂場に旗を差して記念撮影をしてお茶を濁していたりする。
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