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このラグラッド王国の人々は、一般的にケルティア神話を題材とした叙事詩や、ガリアで有名どころの騎士や冒険者を謳ったヒロイックサーガ、女性だったら古典演劇を題材とした騎士と姫君の恋愛歌を好む傾向にある。 ようするに昔ながらのクラシカルな曲が好きなんだよね。反対に、他民族の曲やアップテンポな流行り歌は受けが悪い。 その辺りに彼らの保守的な民族性が垣間見えるよね。 とりわけ、厳しい自然に囲まれた北方の辺りではその傾向が強い。 つまり、うちの父は受けがいいからという理由で、行く先々の町で似たような曲調の似たような歌ばっかり弾き続けているものだから、それを毎日聴いている僕としてはいささかマンネリ気味なのだ。 たまにはヘドバンしながらデスボでシャウトしてくれればいいのに。 あの人ヘビメタとかも普通にいける人だからね。 ぶっ続けに長い叙事詩を歌い続けて流石に喉が疲れたのだろう。 父はインストに切り替えて、水を飲んで喉を潤しながらリュートをつま弾く。 どこかもの悲しさを感じるケルト風の曲調。 僕は前世の頃からこういったケルト音楽は好きで、稚拙ながら自分でもオリジナルの曲を作ってミクに歌わせていたんだけれど…… 「……ふぁぁ………ねむい……」 この手の音楽は夜中に聴くと眠くなる。 中身はともかく身体は9歳児な僕にはちょっとキツい。油断しているとこっくりこっくり舟をこいでしまいそうだ。 「……もう眠いのかい、坊主? なら、先に部屋に行って寝てな。もう少ししたらこっちも店終いするからよ」 「うん…そうする……ありがと、おっちゃん……」 酒場のオヤジに促され、僕は眠い目をこすりながら、子供には些か脚の高いカウンターの腰掛けからぴょんと飛び降り、演奏中の父に声をかける。 「……イーリアス……ぼく、さきにねてるね……?」 父は答える代わりにこちらを見つめ、少しだけ口角を上げて軽くうなずく。 無表情で演奏していた父がふっと微笑みかけると、まるで花がほころんだかのようにパアッと空気が華やぎ、酒場の女性客と……一部の男性客がうっとりしたように吐息をもらす。 うん、やっぱAPP18って一長一短だわ。 そう胸の内で呟きつつ、僕はあくびを噛み殺しながら二階の客室へと向かった。
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