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「組織に戻ってお偉いさんに伝えな。ルアンナ・オーシェンには手を出すな。出すなら――組織が壊滅する覚悟で来るんだなと」
術師の男は喉を鳴らして唾を飲み込む。
――彼のいる組織を壊滅させる?
それは夢物語だ。何人の人間を抱えた組織だと思っているんだ。
それを、この男はできると思っているのか? ルアンナ・アルディアーナと二人で襲ってくるというのなら話は別だが――この男の言い方はそういう話ではない。
そもそも、この男は自分の所属する組織を知らない。知らないはずだった。
それなのに。
「―――」
耳元で囁かれた言葉に、いよいよ術師は凍りつく。それはまぎれもなく彼の所属する組織の名だった。
「暗殺に失敗して……怪我をして帰ってくる。さぞかしお偉いさんに叱られるだろうな?」
「……」
「お前さんとこのトップは嗜虐的なので有名だったな。お前さんもさぞかしひどい目に遭うんだろう――いいことを教えてやろう。この名を言えば多少はお目こぼししてもらえるぜ。クルスエスタ・ハーヴェント。この名をな」
「―――!」
術師は泡を食って逃げだそうとした。「おっと」とクルスは術師の体を掴まえた。
「頬に傷くらいで許すと思ってんのか? 甘ちゃんだな、てめぇは」
そうして――
銀光がしばし辺りを支配して――
赤い血が流れる。いくつもの傷を体につけられ、術師は。
その傷以上の恐怖を心に植え付けられる。
クルスエスタ・ハーヴェント。その名なら知っていた。数年前までなら、王都では知る人ぞ知る名だったのだ。特に魔術師にとっては忌避される名だ。誰も顔を知らなかったが、存在していることだけは、たしかに知られていた。
いつの間にか姿を消したと言われている、それは――
――魔術師専門の、殺し屋。
(馬鹿な……なぜ、そんな男がルアンナ・アルディアーナと――)
薄れ行く意識の中で術師は最後にクルスの顔を見た。
そして、正気と狂気の合間に揺れ動くような榛の色の瞳に目を射貫かれ、絶望感の中で失神した。
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