3:ルアンナとクルス 3

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「組織に戻ってお偉いさんに伝えな。ルアンナ・オーシェンには手を出すな。出すなら――組織が壊滅する覚悟で来るんだなと」  術師の男は喉を鳴らして唾を飲み込む。  ――彼のいる組織を壊滅させる?  それは夢物語だ。何人の人間を抱えた組織だと思っているんだ。  それを、この男はできると思っているのか? ルアンナ・アルディアーナと二人で襲ってくるというのなら話は別だが――この男の言い方はそういう話ではない。  そもそも、この男は自分の所属する組織を知らない。知らないはずだった。  それなのに。 「―――」  耳元で囁かれた言葉に、いよいよ術師は凍りつく。それはまぎれもなく彼の所属する組織の名だった。 「暗殺に失敗して……怪我をして帰ってくる。さぞかしお偉いさんに叱られるだろうな?」 「……」 「お前さんとこのトップは嗜虐的(しぎゃくてき)なので有名だったな。お前さんもさぞかしひどい目に遭うんだろう――いいことを教えてやろう。この名を言えば多少はお目こぼししてもらえるぜ。クルスエスタ・ハーヴェント。この名をな」 「―――!」  術師は泡を食って逃げだそうとした。「おっと」とクルスは術師の体を掴まえた。 「頬に傷くらいで許すと思ってんのか? 甘ちゃんだな、てめぇは」  そうして――  銀光がしばし辺りを支配して――  赤い血が流れる。いくつもの傷を体につけられ、術師は。  その傷以上の恐怖を心に植え付けられる。  クルスエスタ・ハーヴェント。その名なら知っていた。数年前までなら、王都では知る人ぞ知る名だったのだ。特に魔術師にとっては忌避される名だ。誰も顔を知らなかったが、存在していることだけは、たしかに知られていた。  いつの間にか姿を消したと言われている、それは――  ――()()()()()()()()()。 (馬鹿な……なぜ、そんな男がルアンナ・アルディアーナと――)  薄れ行く意識の中で術師は最後にクルスの顔を見た。  そして、正気と狂気の合間に揺れ動くような榛の色の瞳に目を射貫かれ、絶望感の中で失神した。
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