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「ですが今の私は何の力も持たないただの宵です。それだけは真実です。そして私を助けてくれた女将さんや、私をここに導いて下さった幸村様の為にも私は少しでもここで女中として働くことが恩返しだと思っています。その為に、少しでも早く皆さんと仲良くなりたいと思っているんです。特に……才蔵様は私の世話係ということで少しでも疑われているのなら少しでも早くそれを解消したいと思っています。」
「………………」
宵はこの事を話す間、瞳は1度も揺れなかった。
嘘は………ない。眩しいほど煌めいていて近くにいたらこちらも光に充てられそうで……
才蔵は呆れたようにため息を付いてクナイをしまった。
「はぁ……アンタの馬鹿さ加減には呆れる。どうしたらそこまで素直に全部受け入れようって…話そうって思えるのか……」
「ありがとうございます」
宵は嬉しそうに笑った。
「にしても、よくクナイ当てられた状態であれだけ盛大に語れるね……あぁいう体験……慣れてんの?」
クナイを音もなくしまいながら問うと、宵はキョトンと答えた。
「あぁ…なんだか不思議と刃物が怖くないんですよ。女将さんに簡単な料理を教わる際も包丁を使ったんですが、すぐに使えるようになって……指を切りかけたりもしたんですが、それでも全然怖くなくて……不思議です。」
「へぇ……怖くない……ね……」
才蔵がぼそっと呟いた。
「何か言いました?」
「いや、何も?」
才蔵は再び屋根の上に座って持っていた酒を飲んだ。
「才蔵様もお酒お強いんですか?」
「ん?まぁ酔ったことはないよ。」
今までのぶっきらぼうで愛想がない言い方ではなく普通にのんびりとした口調だった。
それが、少し認められたような気がして宵は思わず顔が綻んだ。
「何ニヤニヤしてるの?気持ち悪いんだけど。」
「え?私そんな顔してました?」
「してたしてた。すごく嬉しそうな顔してた。」
「…そうですか……以後気をつけます。」
宵は嬉しそうに微笑んだ。
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