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「………ん」
少女は褥の上でゆっくりと目を開けた。
「大丈夫かい?」
少女の視界に自分を覗き込む女性の顔が映る。
「あの……ここは…」
少女はゆっくりと体を起こそうとすると女性が止めた。
「ダメダメ!ひどい怪我だったんだから!」と、再び褥に寝かされる。
「大丈夫かい?あんた、一昨日の大雨で流されてきたんだろ?川辺で倒れてるの見たときはダメかと思ったよ。」
「一昨日の……大雨……?」
少女の中で何かが揺らいだ気がした。
「覚えてないかい?それよりどこの誰だい?名乗っておくれ」
「名前………………宵…」
「宵って言うのかい?良い名前だねぇ。ここは小さな小料理店なんだけどね、私はそこの女将をしてるんだよ。」
「女将さん………わざわざありがとうございます」
宵は深々と頭を下げた。
「にしても、なんで川に?」
「……川?……………分かりません……なんで川に……わからない……わからない……」
宵は泣きそうな声で頭を抱えた。
「まさか流された時頭を打ったせいで記憶喪失になったのかい?」
「頭を………?」
「あぁ、あんたを診た医者が頭も打ってるって言ってたよ。」
「……そう…ですか」
「記憶喪失は辛いねぇ………持ってたものも全部流されて、服も着れないくらいボロボロだったし。」
女将の言うとおり、宵は寝間着を着せられていた。
「大丈夫です。でも私働かなきゃいけませんね………」
「あんたは何が出来るんだい?」
「分かりません………」
「じゃあ料理を教えよう。……と言いたいところだけどその怪我じゃあ何も出来ないよ。」
宵は顔以外全身包帯で覆われていた。
「大丈夫ですよ、これくらい」
宵はそう言って簡単に立ち上がった。
「痛くないのかい?」
「はい!全然大丈夫です」
宵は笑顔で頷いた。
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