第5話

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翌日の夕餉の後、素早く片付けを済ませた宵は部屋に戻っていた。 そして約束通り六郎が部屋を訪れた。 「さ、行きましょう」 2人はそのまま素早く城を出た。 そして六郎が利用する裏の呉服屋で2人は芸妓の様な格好に着替えた。 「やはり………思っていた以上に美しい……」 六郎は見惚れるように目を細めた。 「ありがとうございます。六郎様も大変お美しいですよ。」 宵も穏やかに返した。 「私の事は六音(リクネ)と呼んでくださいね」 六郎は更に声の高さを上げ、一層女性らしさを増した。 「分かりました。六音様」 「んー……六音さん、で良いわ。それと貴女には十六夜という偽名を用意してあるから。」 「……い……十六夜……?」 宵はその名がどこかで聞いたことがあるような気がして反芻した。 だがどこで聞いたのか……全てを忘れてしまった宵には思い出せなかった。 「分かりました」 分からないままとりあえずで頷いた。 2人が外に出ると既に六郎が手配した籠が来ており、2人はそこに乗り込んだ。 そしてしばらく籠に揺られながらある建物の前に到着した。 「ここですか?」 「えぇ。」 そこは昼のような明るさを放つ建物で中からは賑やかな声が聞こえていた。 「ここに入った瞬間から気を抜かないで」 六郎は宵の耳元で囁いた。 宵は顔を引き締めて頷いた。 中に入ると身振りの良さそうな男達が美しい芸妓に囲まれながら花札やら賭け事をしていた。 六郎が入ると多くの男の目が彼に集中した。 「六音さんじゃないか」 「おお、相変わらず美しい」 「良ければ私の相手を……」 芸妓達と比べても一際美しい彼は多くの男に声をかけられた。 「そちらの美人は?」 「あぁ、この子は十六夜。私の妹分みたいなものですの。」 六郎は綺麗な声で上品に喋る。 「ほほぉ……六音さんの妹分と言うだけあって美人ですなぁ……」 「そちらの子、良いかい?」 「いえいえ、この子は今日は私と一緒に奥の部屋に。この子をここで働かせるには主人の許可が要りますから。」 六郎はにこ、と口角を上げた。 そした慣れた足取りで宵を連れて奥の方に行った。 「あの……奥には何が?」 宵は小さな声で恐る恐る問いかける。 「あぁ、ここの主人。ご挨拶をね。」
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