第2話

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外に出て、屋根の上で1人で酒を片手に座っている才蔵を見つけた。 宵はすぐに屋根の上に登った。 「才蔵様」 宵は才蔵に近づいて声をかけた。 「何」 才蔵は宵を見ることなくただ月を眺めていた。 「いえ、今真田十勇士の皆様が宴をして下さっている中才蔵様がいなかったので。」 「気にしなくていいよ、宴に戻りな。月見の邪魔。」 才蔵は明らかに宵を遠ざけようとしていた。 「…才蔵様は人と距離を置いているように見えます。」 「それが何?人と関わるのが嫌いなんだけど」 苛付きを纏った声が放たれる。 「………それは…何か理由が?」 「は?それを知って何になる?」 「それは………」 宵が言葉を詰まらせた瞬間、宵の喉元にクナイが当てられる。 冷たい鉄の感触が喉を伝う。 「やっぱりアンタ、どこかの間者じゃないの?」 冷たく刺すような目。それは紛れもない忍の目だった。 相手を恐怖で支配する程の殺気。冷たく震えさせるほどの冷酷な視線。 才蔵はクナイに少し力を入れる。首筋から一筋の血が流れる。 だが宵は怯えず、少し驚いたように目を見開いていた。 「………綺麗…」 思わずその言葉が漏れていた。 「は?」 「赤い瞳………」 才蔵はハッとし、クナイを遠ざけ、自分の目を押さえる。 「………っ!」 月の光に照らされて紅く光を放っている。 「初めて見ました…」 見惚れるように瞳を見つめた。 「こんな血の色のした呪われた目……綺麗でもなんでもない。忍すらも毛嫌いする色だ。」 自嘲するように言った。 「綺麗ですよ。………すごく……」 宵はその頬に手を伸ばす。 才蔵はハッとしてその手を掴む。 「綺麗なんて言う奴は初めて見た。」 赤い瞳を綺麗だと言う宵の瞳に嘘は無かった。 「先程私に、間者ではないかとおっしゃいましたよね?」 宵は話題を戻し、真っ直ぐ才蔵の目を見た。 「…そうだね」 「私には今、記憶がありません。なので間者かと聞かれても違うと即答することは出来ません。記憶を失う前の私がどんな人間だったかなんて分かりませんから。」 分からないはずなのにどこか確信を持ったようにはっきりとした口調で続けた。
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