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――◇――◇――◇――
中学の頃。日本一の女を振った。
彼女の名は嵐山藍子といい、名を知らない若者はいないほどの有名人だ。
インターネットで音楽活動を続け、わずか半年でテレビ番組に引っ張りだこ。
そうなれば、遠い存在になるといったコメントが喉元から飛び出るはずなのだけれど、何故か彼女は僕と連絡を取りたがる。
以前に、こっぴどく振ったイメージがあるのだけれど、どうやら懲りていない様子。
過去ならともかく、今の僕には好きな人がいるので、口説かれたところで、選択を変えるというのは難しいことだと思う今日この頃。
「今日はお疲れ様。乾杯」
夜八時。
政治家のパーティでのプレゼンを終えた僕は、ランこと嵐山藍子と中華料理店に来ていた。
寂れたアーケード街の中にある、相当レベルの高い店だ。
値は高いけれど、有名人を誘うとなれば、間違いなくここを選ぶ。
「さあ、ピータンを食べろ。僕の持論では、ピータンが上手い中華料理店は、どの料理も大体美味い」
「それ、美鶴が卵料理好きってだけじゃん」
ランこと嵐山藍子の台詞にムッとする。
こいつ、相変わらず何でもズバズバ言うな。
「ま。あんたのフォークで突き刺したヤツだったら、食べてもいいけど」
面倒くさいな。
しぶしぶピータンをフォークに突き刺し、隣の席にいるランの口元に持っていく。
「日本一の女と間接キスなんて、レアだよ。ファンが札束積んでも出来やしないから」
「握手したら手を洗わないファンみたく、明日まで歯磨きするなっていうことか?」
「虫歯になっちゃうでしょ。口内の手入れは徹底的にして」
お前は僕の母親か。
小さな口でピータンを咀嚼するメッシュのポニーテールを見ながら思う。
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