第2章「狂う歯車」

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 二人以上の人間が入ることのできる擬似的な密室空間。  入った以上、浮気(厳密にいうと違う)のアリバイを作ってしまうことになるのだけれど、背に腹は代えられない。  なにより、このプリクラとやらには、証明写真において微塵も利便性を感じられないデコレーションという機能がある。  僕の顔を怪物(クリーチャー)風にデコってしまえば、そう簡単に特定されることは無いだろう。 「えっと、トイレっていうのは嘘で……」 「じゃあ何? さっさと映画に行こうよ」  くるりと階段を上る準備をするランの袖口を握る。  そして、 「つるみん、久々に会えた嵐子ちゃんと思い出が作りたいの。だから、お願い……プリクラして?」 「最初、あたしの意見を無視っといてよく言うよ」 「だって、急いできたから、メイクとか自信なくて。藍子ちゃんと不釣り合いじゃないかなって……ゴメンね。ワガママなつるみんに振り回されたくないもんね」 「だっ、誰もあんたと写真撮りたくないなんて言ってないじゃん」  耳まで赤くなるラン。  クールに気取っている自分を演出しているけれど、わかりやすい性格をしているのは中学生の頃と変わらない。    というか、仮にも惚れた男とのツーショット写真が女装な事には文句を言わないのか?  なんてセリフが頭をよぎった数秒後に、かざみの男装がアリだと感じてしまった僕は、何も言えなくなってしまった。  鶴見式虚実微笑(つるみん・パーフェクト・スマイル)を顔面に貼り付けながら、いざプリクラの機械がある方へ。  カーテンらしきものを開き、いざ籠の中へと突入してみれば、意外と広めな内装に驚く。  思い返せば、不良のときにつるんでいたギャル六人が機体の中で(うごめ)いていたので、二人で撮るには広すぎるぐらいなのか。  コインを投入したランが、手際よく機械を操作する様を眺めながら、過去の事を思い返すと、こいつと初対面の頃の出来事が脳をよぎった。
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