第2章「狂う歯車」

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 不良に絡まれているところを助けたあたりは、かざみとの出会いに酷似していたけれど、決定的に違っていたのは第一印象の差だといえる。  ランに対する印象は最悪だった。  奴は僕と出会う直前に、歌手としてプロデビューする切欠を失い、自暴自棄になっていた。  自分のバンドを完成形に近づけるため、ドラム担当をしていた親友を脱退させようとした結果、バンド自体が解散となったらしい。  けれど、僕にとっては、  民放の料理審査番組で対戦相手に酷い仕打ちを受けたあげく、学級全体から凄絶な虐めを受け続けた僕にとっては、非常に陳腐であり安っぽい過去話だった。  だって、そうだろう。  藍子は成功すれば『悲劇を乗り越えたヒロイン』となる。  対する僕は世間からの笑いもの。  舞台に立つだけで嘲笑の的になり、事実上表舞台から完全追放された状態にいたのだから。 『歌うだけならどうにでもなるだろ! 嘆くなら、手段が全部なくなってからにしろよ!』  胸ぐらを掴んで叫んだ僕の声に、涙をぼろぼろと零したランもまた怒りの感情を向けて顔面を殴ってきたのは、今でも鮮明に覚えている。  その後、殴り疲れて手が止まった彼女は、ぶつけようのない感情を押し付けるかのように僕の胸元で号泣した。    ラン曰く、あの頃から僕を好きだと意識したらしいのだけれど、どこに僕を好きになる要素があるかが不明瞭だ。  意味不明である。 「どうしたの?」 「お前と初めて会った時のことを……思い出しちゃってぇ☆」 「あの時は、叩いたりしてゴメン。痛かったでしょ?」 「ぜーんぜん。つるみん、身も心もスペシャル超合金ですから!」 「じゃ、写真撮るから、笑って」  機体の声がすると同時に、ランがカメラに人差し指を向ける。  僕は全力の演技力を込めて、 「はーい、鶴見式虚実微笑(つるみん・パーフェクト・スマイル)ぅ☆」 「ぶっ!?」  両手でピースサインを作り、にぱっと笑顔を浮かべたのだけれど、それに呼応したかのようにランが奇声を発した。  一枚目の写真は非常にいい出来だ。  残念な点は、僕の満面スマイルを喰ってしまうほどにランが変顔であったことぐらいである。 「ちょっと!? どうしてくれるの、あたしのプリクラ代!」   「二回目があるだろ! 慌てる必要ないじゃないか! じゃなくて、ないじゃないですか~」  もみくちゃになる二人。  お前はいいだろうけれど、僕の場合はしっかりとセットして女装しているんだ。  無暗に変なところを触らないでくれ。
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