第2章「狂う歯車」

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『二枚目いっくよー。ポーズを決めて~』 「今度、ツルミ・インティライミやったら絶対許さないから」  機械の声がした直後に親友からの怨念が響く。  軽いホラーだ。  ところで、ツルミ・インティライミさんはどちら様ですか?    脳裏に浮かぶ疑問符を払拭(ふっしょく)しながらカメラ目線を意識する。  今度は棒立ちだ。文句は言われまい。  可もなく不可もない演出に、多少の満足感を覚えた僕が、目を伏せながら悦に入っていると、 「んっ……」  生暖かいものが、頬に押し付けられた。  何かと思って目を開いた瞬間にフラッシュが視界を潰す。  そして、ブラックアウトした状態から数秒で、色を取り戻した僕の瞳が映したものは、 「オゥマイガ――ッ!!」  僕の頬にキスをするランの姿。  そして、悦に入っている僕の口元がゴシップ記事のように脳内を刺激する。  ランは背が縮んだのだろうか。昔は同じ背丈だったのに、キスをする時の顔の角度が斜め上になっている。  などという、変な解説をしている暇はない。  この写真が出回ったら終わりだ。  離婚を切り出され、裁判沙汰になり、親権はかざみに移る。  確実に僕の息の根を止める悪魔の画像が、一枚目と同じ天秤にかけられている。 『どれをプリントするか選んでね? 選んだら楽しくデコっちゃおう』  楽しくないわバカタレ。  選択肢は前者だ。有無も言わさない。 『時間内にデコってね!』  と、意気込んだ瞬間だった。  いつの間にか、僕は数秒先の未来にタイムスリップしていた。  そう錯覚するほどに、ランの画面タッチは神速だった。    呆然とする僕。  その間にも可愛い筆記体で書かれる『I was born to love you』の文字。   「やめろォ!」 「あ! こら! なんで美鶴の顔をハコフグにするの!」 「お前こそ……私は貴方を愛する為に生まれてきたっていうのやめろ!」 「これは、あたしが言ってるんじゃなくて、美鶴に言わせてるって演出」 「尚更悪いわ! さっさと直せ!」  事実を捏造する女。その名も嵐山藍子。  仲よく喧嘩する彼女は、僕にとって姉のようで妹のような存在だ。  だからだろうか。ランに対する言葉遣いは、弟に対するそれである。
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