第3章「予想外の猛襲」

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 言い終えてから、自分が無理難題な注文をしていることに気付く。   「相手をドン引きさせればいいんじゃないでしょうか? 例えば、姉さんが極度のオタクだったり……」 「僕は食材オタクだ」 「すみません」  そんな深々と謝るな。 「あ! 俺が姐さんにドン引きしてるっていうわけじゃないですよ!?」  いちいち報告するな。  数秒の沈黙が続いている間に、脳内でコメントする。 「いずれにせよ姉ちゃんが被害をこうむるってのが、最悪のシナリオだ。このクラスと俺のクラスには、姉ちゃんと美鶴の関係が周知されている。現時点では、二人の恋がどうなるかを見物するってのが校内の常識だ。いちいち邪魔する奴はいなかったが……」 「第三者の存在が強すぎるか」  様々なメディアで取り上げられている全国クラスの人気者。  それを相手にして、教室二つ分で結ばれた無言の盟約が瓦解せずに存在しうるのだろうか。 「現在の状況を政治家の情勢で例えると、最初は当選確定と思われた知事選に突如として対抗馬が現れた。しかも、それが元アイドルだ。状況的には最悪に近い」 「何故、政治で例えるんです? この状況は、言わば色恋沙汰でしょう?」 「こーいう話は、感情が混じると冷静に判断するのが大変なんだよ。物事はシンプルに纏める。これ、鉄則な?」  つまり、最初からある程度の知名度(にんき)を持った奴が、敵として現れたということか。 「ですが、嵐山といえばアイドルでしょう? 今世紀において、アイドルの恋愛は御法度では?」 「あいつはシンガーソングライターだ。美鶴から貰った歌詞にメロディをつけて動画配信することで生計を立ててやがる。今は事務所にも所属してないから、余所様(よそさま)に御機嫌をうかがう必要ゼロだ」  方針を全て自分で決められる。  よく言えば自由度が高く、悪く言えば自己責任ということだ。  弟からのアドバイスを受けて、ランの恐ろしさを再認識する。   「嵐山藍子とは……どういう人間?」 「動画投稿サイトのCMで曲が流れる程度の有名人だよ」 「性格は?」 「美鶴を女にした感じだ」  嘉菊からの言葉を咀嚼した三吉野の天然パーマが斜めに傾く。  これは「彼は女ではないのか?」と言わんばかりの顔だな。
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