第1章「狡猾なる恋愛同盟」

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 もしも、この女に僕が好きな女子を知られたら、大変な事になりそうだ。  それだけは、何としても避けたい。   「ねえ。あたしとの約束覚えてる?」  料理を胃の中に入れたランが両手で頬杖をついた。  気の強さを象徴するかのような、猫目がこちらをじっと見つめている。  約束って、なんだったかな。  前に借りていたゲームは東京の家に速達で送ったぞ? 「ゲームじゃなかったら本かな? 二週間前に借りた『メンタリストな彼女』は最新の八巻をまだ読み終わってないから返さないぞ」 「美鶴って恋愛よりファンタジー系とヒロイック系ばっか手付けてたから、正直ビックリした。ラブストーリーは理解できないから嫌いなんじゃなかったの?」 「だからこそ、知る必要がある」  フィクションとはいえ、恋愛を知るには良い教科書になると思った。  なにより、少女マンガを読みそうな友人が周囲にいないし、そもそも僕が友と呼べる存在は非常に少ない。 「まあ、美鶴が恋愛に興味を持ってくれたのは嬉しいけどさ。約束ってそれじゃないんだ」  ――東京に行く前に約束したこと。  ランが頬を緩ませた。 「もし、あたしが日本一の歌手になった時に美鶴がフリーだったら、あたしの彼氏になる」  柔らかな表情をした女から剛速の魔球が送られてきた。  まさに、言葉のベースボールである。  さあ、どのように言い返してやろうか。  フリーという概念が『彼女ナシ』を定義しているのなら、僕はフリーだ。  しかし『意中の女性がいない』という定義ならば、僕はフリーではない。  ここで無言を貫けば、ランの思う壺だ。  でも、僕が好きな女性の名前。鳳かざみのことを口にしてしまえば、かざみの身が危ない。  どんな相手にも噛み付く性格をした女だ。  出来れば、かざみと関わらせたくない。
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