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もしも、この女に僕が好きな女子を知られたら、大変な事になりそうだ。
それだけは、何としても避けたい。
「ねえ。あたしとの約束覚えてる?」
料理を胃の中に入れたランが両手で頬杖をついた。
気の強さを象徴するかのような、猫目がこちらをじっと見つめている。
約束って、なんだったかな。
前に借りていたゲームは東京の家に速達で送ったぞ?
「ゲームじゃなかったら本かな? 二週間前に借りた『メンタリストな彼女』は最新の八巻をまだ読み終わってないから返さないぞ」
「美鶴って恋愛よりファンタジー系とヒロイック系ばっか手付けてたから、正直ビックリした。ラブストーリーは理解できないから嫌いなんじゃなかったの?」
「だからこそ、知る必要がある」
フィクションとはいえ、恋愛を知るには良い教科書になると思った。
なにより、少女マンガを読みそうな友人が周囲にいないし、そもそも僕が友と呼べる存在は非常に少ない。
「まあ、美鶴が恋愛に興味を持ってくれたのは嬉しいけどさ。約束ってそれじゃないんだ」
――東京に行く前に約束したこと。
ランが頬を緩ませた。
「もし、あたしが日本一の歌手になった時に美鶴がフリーだったら、あたしの彼氏になる」
柔らかな表情をした女から剛速の魔球が送られてきた。
まさに、言葉のベースボールである。
さあ、どのように言い返してやろうか。
フリーという概念が『彼女ナシ』を定義しているのなら、僕はフリーだ。
しかし『意中の女性がいない』という定義ならば、僕はフリーではない。
ここで無言を貫けば、ランの思う壺だ。
でも、僕が好きな女性の名前。鳳かざみのことを口にしてしまえば、かざみの身が危ない。
どんな相手にも噛み付く性格をした女だ。
出来れば、かざみと関わらせたくない。
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