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私たちの正面には、中須賀君の姿。
女の人と話をしているみたいだけど、どこかで見たことのある背中だ。
「ねえ、中須賀。かざみっていう女子のこと、知ってるんでしょ? 教えてよ」
「兄貴から聞いてるぜ嵐山。姐さんに良からぬことをしてるってな。そんな奴にゲロってたまるかよ」
「嘉菊……いつも余計な事ばっかするよね。あたしはただ、美鶴を振り回してる女に文句言ってやろうと思ってるだけなのに」
嵐山という言葉。そして、特徴のある強い声に驚く。
この人、もしかして、あの有名な嵐山藍子さん?
弟さんが警戒しているってことは、間違いないよね。
この間、小耳に挟んだし。
「姐さんからは嵐山と約束してたって聞いたぜ? 鳳さんのことは調べないってな」
「調べてないじゃん。あたしのやってる事が美鶴にとって都合の悪い事だとしたら、それは美鶴の伝達能力がダメだっただけでしょ?」
「テメエ!」
中須賀君が黒髪ポニーテールの女子の襟首をつかむ。
「いいの? せっかく奇跡的に合格した高校、停学になっちゃって。本当は柔道でいい成績をとって試験にパスしようとした矢先、片腕がダメになって諦めてた場所じゃん」
「こ……このアマ」
中須賀君がこういう口調で話をしている姿は初めて見た。
今まで、嵐山さんの影響で気付かなかったけど、ですます口調で話をしない中須賀君は結構怖い。
本物の番長みたいだから。
でも、怖がっている私を置いて、
恐ろしい雰囲気を出している中須賀君に向かって、サツキちゃんが足を進めた。
そして、
「ねえ、玄馬君。この人、誰?」
「えっと、嵐山藍子。元不良仲間です。とりあえず、彩……」
「カ行君の言いたいことが理解できたわ。玄馬君は、お口にチャックしてなさい」
小さな背中から漏れた声は、笑っているように聞こえた。
だからこそ、心が張りつめるような圧を感じる。
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