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「どうしたの黙っちゃって。らしくない」
らしくない、か。
まずは手始めに、らしくなさという名の違和感を利用して、顔が瓜二つな双子の弟になりすましてみよう。
「あー、俺は残念ながら美鶴じゃねえ。弟の方だ。御崎嘉菊だよ」
「いや、嘉菊は髪長くないし、白髪じゃん。バレバレの嘘つかないで、とっとと白状しなって」
惜しい! 髪が短かったら騙せていた!
演技には自信があるのだけれど、如何せん髪が長い。
愚かだった過去の自分から決別するために伸ばしたこの髪が憎い。
「……好きな人がいる」
「は?」
「残念ながらお前以外の女だ」
背筋が凍りつくとは、こういう状況を言うらしい。
ランの目に、不良として過ごしていた中学時代の野性が取り戻されたような気がした。
「付き合ってんの? どこまでいった? キス? それ以上?」
「名前で呼びあえる仲になりました」
僕、なんで敬語で喋ってるんだ?
「なにそれ。あたしと美鶴だってそうじゃん」
「い、いや。僕にとっては精一杯の成長なのだけれど」
「告白はしたの?」
「したけれど……保留中」
質問攻めされて胃潰瘍になりそうだ。
こいつ、昔からずっとこんな性格だったな。
自分の思い通りにならないことは、全力でごり押すスタイル。
「それ、振られてるってことじゃないの?」
こういう心を抉ることも平気で言う。
だからこそ僕の実弟である嘉菊からは非常に嫌われている。
嘉菊は自己中な性格を演じているけれど、誰よりも争いを好まない奴だ。
不良をやっていた頃も、常にあいつがストッパーになっていた。
「あたしは……あたしなら、美鶴と自然体で付き合える」
僕は親友としてのランならば歓迎したいところなのだけれど、彼女が恋人になるというイメージがあまり湧かない。
嫁になったら尻に敷かれそうな予感はするけれど。
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