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ランを押し倒した姿勢で過去の回想をする。
気恥ずかしそうに視線を斜め上に逸らしている親友に言及されるまで、この事実を忘れていたことは、なんとも言い難い失態である。
かざみが忘却していたらいいのだけれど。
「それで……さ」
「なんだ?」
「美鶴は鳳さんのことがどうして好きなの? あたし、会ってみても理解できなかったんだけど」
仰向けのランは、視線を明後日の方向に傾けたまま尋ねる。
よくよく見ると女らしい身体をしている。
胸はそれなりにあるし、足は細い。
女として必要な部分以外の肉を全部削ぎ落としたような体型だ。
嘉菊風に言えば『アリかナシかでいえば、アリ』である。
「かざみは優しいんだよ。誰も傷つけようとしない。誰も傷つかない方法しか選ぼうとしないから貧乏くじばかり引いている。お前のことだ……決断力も強い意志もない軟弱な女子だと思っているんじゃないのか?」
「それに対しては同意」
「でも、かざみは僕を殴ったことがある」
「え?」
ランは何度も目にしている。
僕が女や子供に対しても容赦なく攻撃していたことを。
レディースであろうが悪さを覚えたばかりの小学生であろうが、加減をすることなく叩き潰している姿を。
「かざみは誰が傷つくことも許さない。僕が自棄になったときも決して見捨てようとはしなかった」
「損な人生だよね。あたしには無理」
しばらくの沈黙が続く。
ランを押し倒している姿勢のまま、テトラポッドに砕かれる波と潮風の匂いを堪能していた僕だったけれど。
「で、いつまであたしを襲ったままでいるつもり?」
「僕としては、このまま二人で寝てしまってもいいぐらいだ」
「ちょっ……ちょっと何考えてるの!? 頭おかしいんじゃないの!?」
雲間から漏れる程度の夕日によって丁度いい温かさになったコンクリート製の防波堤に感動した僕は、何故か狂人扱いされてしまった。
「お前は、この気候に何も感じないのか? 絶好の日向ぼっこタイムじゃないか」
この言葉を耳にしたランが目を丸くする。
かと思えば、突如として顔を真っ赤にして、
「紛らわしい表現しないでよ!」
「どぜう!?」
仰向け状態からの膝蹴りを鳩尾にクリティカルヒットさせてきた。
嵐山藍子。相変わらず恐ろしい女だ。
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