13人が本棚に入れています
本棚に追加
「諦めが悪いのは、美鶴のいいところだけど、悪いところでもあると思うよ。あたし、フリーなんだし付き合っちゃえばいいじゃん」
「僕、一途だから」
「付き合っても無いんだから、あたしと何をしようが浮気の範疇には入らないでしょ? あと、何よりも悔しかったのが振り方だよね」
拝啓、中学時代の僕。
自分の発言には、もう少し責任を持ってくれ。
『お前と付き合うなんて有り得ない』って言ったことをランが根に持ってるぞ。
僕が同じことを意中の相手に言われると、立ち直れなさそうだ。
ここにはいない巨躯で可憐な女性を脳に思い浮かべながら、ランを見る。
「今のあたしは、有り得ないまま?」
「…………あの時は、悪かった」
かざみに出会う前の僕は、物事を勝敗だけで計る頭でっかちの男だった。
思慮が浅く、自分勝手で、血の気も多かったと思う。
「美鶴って、こういうとき絶対謝らなかったよね。あたしに似て、負けず嫌いだった」
「そうかもな」
「あんたは変わった。でも、あたしは変わらない。どんな手を使ってでも、必ず美鶴をあたしの物にする」
昔の僕が言いそうなことをランが口走った。
「お前と付き合うことはない、と言ったら?」
僕の発言に対して微動だにしない親友は、ほんの少しだけ吐息を漏らすと、
「興信所って便利だよね。婚約者の個人情報とか交友関係を徹底的に洗い出せるんだから」
ニタリと口元が笑った。
異様な気迫に最悪の状況を思い浮かべた僕は、反射的に叫ぶ。
「まさか、かざみの事を調べたのか!?」
瞬間、僕は自分がやってしまった失態に気付く。
「へえ。かざみって言うんだ」
今まで隠してきた、意中の女性の名を口にしてしまったのだ。
それは、手段を選ばないことをモットーとするランに、最高の餌を与えてしまったということを意味する。
最初のコメントを投稿しよう!