第1章「狡猾なる恋愛同盟」

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「諦めが悪いのは、美鶴のいいところだけど、悪いところでもあると思うよ。あたし、フリーなんだし付き合っちゃえばいいじゃん」 「僕、一途だから」 「付き合っても無いんだから、あたしと何をしようが浮気の範疇には入らないでしょ? あと、何よりも悔しかったのが振り方だよね」  拝啓、中学時代の僕。  自分の発言には、もう少し責任を持ってくれ。  『お前と付き合うなんて有り得ない』って言ったことをランが根に持ってるぞ。  僕が同じことを意中の相手に言われると、立ち直れなさそうだ。  ここにはいない巨躯で可憐な女性を脳に思い浮かべながら、ランを見る。 「今のあたしは、有り得ないまま?」 「…………あの時は、悪かった」  かざみに出会う前の僕は、物事を勝敗だけで計る頭でっかちの男だった。  思慮が浅く、自分勝手で、血の気も多かったと思う。 「美鶴って、こういうとき絶対謝らなかったよね。あたしに似て、負けず嫌いだった」 「そうかもな」 「あんたは変わった。でも、あたしは変わらない。どんな手を使ってでも、必ず美鶴をあたしの物にする」  昔の僕が言いそうなことをランが口走った。   「お前と付き合うことはない、と言ったら?」  僕の発言に対して微動だにしない親友は、ほんの少しだけ吐息を漏らすと、 「興信所って便利だよね。婚約者の個人情報とか交友関係を徹底的に洗い出せるんだから」  ニタリと口元が笑った。  異様な気迫に最悪の状況を思い浮かべた僕は、反射的に叫ぶ。 「まさか、かざみの事を調べたのか!?」  瞬間、僕は自分がやってしまった失態に気付く。 「へえ。かざみって言うんだ」  今まで隠してきた、意中の女性の名を口にしてしまったのだ。  それは、手段を選ばないことをモットーとするランに、最高の餌を与えてしまったということを意味する。
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