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――◇――◇――◇――
どういうわけか、僕はランの家に来ていた。
無理やり連れ去られたと言ってもいい。
奴が「美鶴があたしを襲ったことを言いふらす」なんて口走らなければ、僕は適当に食事をとって帰っていたというのに。
「いらっしゃい。貴方が美鶴ちゃんね。藍子から聞いたイメージより男の子らしく見えるわ」
なんだこのお嬢様オーラは?
ランとは似ても似つかないじゃないか。
「お姉ちゃん! あたしの美鶴にちょっかいかけないでよ」
お前のじゃない。
「ごめんなさい。そういえば自己紹介をしていなかったわね。私は嵐山美弥子って言います。美しい弥生の子と書いて美弥子よ。藍子共々、仲良くしてね」
どこか近寄りがたい気配を漂わす女だ。
話の切り口を見定められない。
「はぁ……お姉ちゃん、また勝手にご飯作ってる。あたしが美鶴に作ってあげようと思ったのに!」
「ちゃんと連絡するように言ってるでしょ? 貴女は確かに目に入れても痛くないほど可愛いけど、いつまでも自由奔放な妹を待っていたら飢え死にしちゃうわ」
人を判断する基準が「好き嫌い」である僕なのだけれど、この美弥子という女は「苦手」に属する異性だ。
同年代の相手を保育園児のような視線で慈しむ聖母のような表情が、どこか妖しく恐ろしい。
「今日はショッピングモールで挽肉を買ったの。美鶴ちゃんはハンバーグ好き? 男の子はみんな好きだって印象があるけど」
「それなりですね」
「良かったわ。美鶴ちゃんみたいに上手な出来じゃないけど、是非食べてみて? さあ、リビングへどうぞ」
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