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玄関でスリッパに履き替えた後、廊下を渡って三歩ほどの距離にあるドアを開けると、少し狭いリビングへと辿りついた。
椅子は四人分。
けれど、食卓に並んだ食器は二つだけ。
恐らくランが帰ってくることしか計算に入れてなかったのだろう。
だとすれば両親の仕事は夜勤か?
「もう温めてあるから、席について食べて頂戴」
「ですが、美弥子さんの分は?」
「後で食べるから平気よ。それよりも……二人は付き合っているのかしら?」
僕とラン、両名の空気が凍りつく。
対照的に笑顔を崩さないでいる美弥子という女が地味に怖い。
やはり苦手なタイプだ。嫌いではないけれど近づきたくない。
「これから付き合うように仕向けるところ」
「それじゃあ、私が美鶴ちゃんを取っても平気なのかしら?」
この女は、こういう発言に恥じらいを感じないのか?
しかも会って間もない相手に対してだ。
「ちょっと! あたしの美鶴、盗らないでよ」
お前のじゃない。
ほかほかのハンバーグの蒸気を顎に受けた状態で目を細めると、美弥子が頬を緩めた。
「藍子は本当に美鶴ちゃんのことが好きなのね」
僕が苦手とする作り物のような笑顔に、藍子が顔を真っ赤にする。
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