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「偶にいるのよね。絶対音感と音痴を両立させている人間って。だから、私が自分の夢を諦めるのは簡単だった。できないって解りきっているから」
そんな事はないと言う人間は多いだろう。
けれど、そういった言葉を使う人間は、
簡単に「夢を諦めるな」と声高らかに言い放つ大多数は、事なかれ主義の延長線上に与えられた選択肢をそのまま読み上げているに過ぎない。
もっとも、ここで「お前には無理だ」などと真実を語れば、僕はたちまち悪役となってしまうだろう。
親切に効率のいい人生を謳歌するためのアドバイスをしてやっているというのに、とんだ災難である。
――身内以外の人間の中で、気軽に現実を突きつけられる存在はあまりにも少ない。
弟は常々こういった内容の愚痴を僕に漏らしていた。
「貴女が出来ないと思うならやめた方が良い。結婚とか恋愛とかと違って、夢相手には幾らでも浮気できますからね。自分の適性に夢を当てはめればいいんじゃないですか?」
「私もその考えには賛成よ。でも藍子は違った。あの子は私の夢を代わりに叶えようとした。親友や幼馴染とバンドを組んで、プロデビューにあと少しで届くところまでいった」
「ですが、結果としては解散したんですよね」
「ええ。ドラムの子を変えたらプロデビュー。この条件を芸能プロダクションの人から言われたのが全ての切欠」
ランはきっとドラム担当を変える決断をしただろう。
あいつは自分の願望を叶えるために手段を選ばない女だから。
「ドラムの蓬ちゃんは幼稚園の頃から付き合っていた幼馴染でね。かけがえの無い親友だったの。だから、あの子は藍子の夢を応援するためにバンドから抜けようとした。だけど、それを許さなかった子がいた」
――ボーカルの桜庭日和さん。
美弥子の声に身体が強張る。
ランの奴、桜庭と知り合いだったのか!?
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