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淀んだ目で、視線を外さないままのランの策に踊らされていることを悟り、自然と口元がゆがむ。
まるで昔の自分を相手にしているような気分だ。
口元だけを笑わせた女が、僕に言う。
「もし、あたしとの約束を守れたら、かざみっていう子を調べない方向で考えてもいいよ?」
彼女に対して切れるカードは、彼女自身が選ぶ。
かざみを守るために残された手段は、従うことだけだ。
ゆえに、僕は問う。
これが、ランが欲しているものだから。
「僕は、どうすればいい?」
「そうだね。じゃあ、来週の月曜日から金曜日まで、放課後デートを毎日してもらおうかな」
「彼女を裏切ることになる。素直に呑めない条件だな」
「彼氏になることを強制してるわけじゃないし、女子同士で出掛けるのだってデートでしょ? 美鶴、重たく考えすぎ」
呆れた顔をする親友の反応に『最近の女子とは、かくいうものなのか』と驚く。
しかし、かざみも同じような考えなのだとしたら、一週間限定の放課後デートなど、取るに足らないことなのかもしれない。
なにより、ここで僕が解答できる選択肢はYESの三文字。
さもなくば、かざみが危ない。
本当に興信所を雇われかねない今、僕が出来ることはひとつ。
――かざみにバレないように、内密にデートを済ます。
「わかった。ただし、実際に付き合うわけじゃない」
「でも、やるからには全力出してくれるでしょ? だって美鶴だし」
「僕のことをよくわかっているじゃないか。流石は親友だ」
「その親友ってのを彼女に言い直させるまで、あたし負けないからね」
ランの屈託の無い破顔一笑の表情は、どこか色っぽいと思っていると、見計らったように中華丼がやってきた。
それを取り皿にわけて食べている当時の僕は、自分の判断がベストな選択ではなかった事をまだ知らずにいた。
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