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「この一週間は、用事があるんだ。ごめん」
放課後の教室で、美鶴くんが頭を垂らした。
今思えば、この時点で彼が置かれている状況に気付くべきだったかもしれない。
美食研究会という部活に所属している私は、メンバーである美鶴くんを誘った。
だけど、普段は「行こう!」って即答する彼が、誘いを断った。
私を好きと言ってくれている美鶴くん(自分で言うのはちょっと変な気持ち)が、悩みも葛藤もせずに誘いを断るのは可笑しい。
でも、それを誰かにいうと自意識過剰だって思われるし、実際に自分自身でそう感じてしまうところがある。
「一週間?」
「ちょっとだけ営業活動をしなくちゃいけないんだ」
営業活動。
美鶴くんの弟・御崎嘉菊さんは、趣味で徳島県を食事で盛り上げるための営業をしている。
もしかして、弟さんと何かをする予定なのかな?
「それって、農場とかに商品を売り込むのかな?」
「いや。ジャンルとしては芸能関連かな」
あからさまに目を逸らす美鶴くん。
心なしか、いつもはツヤツヤしているブロンズヘアが、使い古された十円玉みたいにくすんで見える。
「動画配信とかやるの?」
「さあ。それは担当者次第かな。僕としては、穏便に済ませたいのだけれど」
そんな危ない仕事なの!?
心配だけど、美鶴くんのお仕事を手伝うってなると、足手まといになりそうだし。
応援だけしておけば、いいのかな?
「頑張ってね! あと、いつかお仕事の内容も教えて欲しいな。なんにも知らない普通の人としてなら、アドバイスできるかもだし」
「嬉しいよ。ありがとう、かざみ」
自分の名前を呼ばれて、顔が熱くなるのを感じた。
やっぱり、呼ばれなれてないなあ。
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