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どこからか、ガムランの音が響いてくる。
私の父は元々、ガムラン奏者だった。母は伝統舞踊の踊り手だった。
元来ワヤン・レンダリは寺での儀式の時に神々に降りてきてもらうための神聖な舞踊だったが、父は今、三十人ほどからなる「インギット」という名のワヤン・レンダリのグループを主催していて、寺の儀式の時だけでなく、観光客にそれを見せてなんとか生計を立てている。
寺で行われるワヤン・レンダリは無償のものだし、観光客の前で踊る時にはチケットの収入の半分以上が村や寺院といった公的なところに収められるから、華々しく見える舞踊団であろうと、過去も現在も、生活をするのがやっとの暮らしだ。
母は父を手伝ってインギットの踊りの指導や振り付けをし、私の兄と二人の妹も小さい頃からインギットで踊っている。
舞踊では男性も女性も化粧をほどこし、金で飾られた煌びやかな衣装をまとい、踊る。
神々と波長を合わせるために心身を清めて鍛錬を積んだ舞踊をすることで、自らが神の化身となって天空とつながり、寺に神を呼ぶ。そんな意味合いがある中での踊りは村人たちにとって誇らしいもので、踊り手は「選ばれた者」として賞賛を浴びるのだ。
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