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「それから翔太が幸せそうで嬉しかった。翔太の父親はアル中で、母親は早々に父親に見切りをつけて家を出てた。翔太は酒が切れては暴れる父親に最後は売り飛ばされたんだ。そんな環境で育ってきたのに、早く結婚したい、子供いっぱいの温かい家庭を作りたいって。
あんなに面倒見が良くて優しいんだから、きっといい夫にも父親にもなるよね?」
「そうだね。彼は真っ直ぐで男気もあるしね」
「沢井のことは・・・正直まだ実感が湧かない。だからなのかなあ・・・翔太はあんなにすっきりしてたけど、僕の中のモヤモヤがどこかに吹き飛んだって感じはしてない。僕が根暗なのかな」
「翔太以上に陽向の傷が深かったんじゃないかな。追いかけられる強迫観念は沢井のところから逃げ出したせいだけど、それ以前の体験の影響が大きかったんだ。だけど、陽向。よく聞いて」
そう言って征治さんは僕の頭をクイッと90度回転させ、自分も横から僕の顔を覗き込むようにして目を合わせる。
「いい?もう陽向を連れ戻そうとする奴はいない。誰かがじっと陽向を見ていても、話しかけてきても、それは陽向を過去の檻に戻そうとする人達じゃない。今の陽向に関心を持っただけだ」
「うん」
「元々そんな奴らの好きにさせるつもりは無かったけど、もう俺と陽向を引き離そうとする奴はいないんだよ」
そうか・・・もう怯えずにずっと征治さんの傍に居られるんだ。やっとすこしリアルに感じて、それが嬉しくて体ごと征治さんの方へ向き直り抱きついた。征治さんの首筋に鼻を埋める。
征治さんが僕の首に手を添えて言った。
「イメージして。もうここにあった首輪も足についていた足枷もバラバラになって無くなったんだ。悪い魔法をかけた魔法使いが消えたからね。陽向は自由に飛べるようになったんだよ」
そして優しく微笑むとキスをしてくれた。
気持ちが緩んだせいか、征治さんの匂いを傍に感じているからか、包み込むような甘いキスにぽうっとなった。
ああ、幸せだ。気持ちいい。気が付いたら「もっと」と口走ってしまっていた。
途端に征治さんの目がキラッと光った気がした。
「続きはこっちだ、バンビちゃん」
そう言うと征治さんは僕の手を引いてベッドルームの扉を開けた。
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