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海岸沿いの切り立った崖の上にある小さな展望台。
1人の若い女が手すりを握りしめ、眼下に広がる海を見つめていた。
長い髪が海から吹き付ける強風になぶられ、しきりと青ざめた顔にまとわりつく。
それでも彼女は身じろぎもせず、手すりからやや身を乗り出し、足下遙かに逆巻く海面を魅入られたように凝視していた。
「観光の方ですか?」
背後からかけられた声に振り返ると、そこに飼い犬を連れた初老の男が立っていた。
「失礼。何だか具合が悪いように見えたもので」
「いえ、別に……」
女は髪をかきあげ、取り繕うように答えた。
「ここ、とっても見晴らしがいいのね。観光ガイドにも載ってないのに」
「ええ。最近になってネットの口コミで広まったそうで……もっともそのおかげで『自殺スポット』なんてありがたくない呼び方もされてますが」
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