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冗談めかして説明する男だが、ここ数年で急に増えてきた崖からの投身自殺は、この町にとって深刻な問題である。
町民の有志がこうして散歩を装い、定期的に展望台を見張っているほどだ。
「自殺って……そんなに多いの?」
「私は地元の漁協の組合員ですけどね。身投げがあると真っ先に船を出して、遺体の引き上げにも協力してます」
「ここから飛び降りたら……やっぱり助からないわよね?」
なおも海の方へ視線を送りながら、女が尋ねる。
「こうして上から見てると、何となく海がすぐそばに見えますがね。でも実際は落ちる途中に風圧で崖に叩きつけられて……」
男は足元にじゃれつく犬をなだめながら、
「でっかいおろし金でおろされるようなもんで、遺体は酷いことになります」
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