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…分かった。きっとこの方は、”振られる”とか、”失恋する”とか、今まで全くご経験がないのでしょう。
じゃないとまるで、『今から買い物行くから付き合って』みたいなノリで、言えるものじゃありません!
…だがしかし、なぜよりにもよって…この私?!
「新しい宿題できたね。返事は急がないからじっくりどうぞ」
「しゅ、宿題って…二神さん、もしかしてまた…からかってます?」
そうだ。きっとそうに違いない!
私が落ち込んでいたからふざけて気持ちを逸らそうと…
「いや? 本気だけど」
咄嗟に浮かんだ私の考えはロケット弾を食らったみたいにドカンと簡単に吹き飛ばされた。
”本気”をそんな、あっさりと…。
やっぱりこの方、理解できません!
もちろん、はいそうですかとすぐに飲み込み納得なんていくわけもなく、私は脂汗を滝のように流し始めた。
「…二神さん、ご質問してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「…私とお付き合いしたい理由は…何なのでしょうか?」
「…美崎さんって本当面白いよね」
二神さんは声に出して笑った。
…お、もしろいですって…? まさかそれが理由!?
面白がられても困るし、私は面白くない!
眉間にしわを寄せて、不信感いっぱいの目で見つめると、さすがの二神さんも笑うのをやめた。
ハンドルに凭れかけていた体を起こし、再び私と真っすぐ向き合う。
「理由は…美崎さんの笑顔を沢山見たいと思ったから。それじゃあだめかな?」
からかう時の目でもなく、優しく微笑むわけでもなく、二神さんは静かな声で私の目を見て言った。
…あ。二神さんのこの目。
さっきプランナーを続ける意味を教えてくれた真剣な瞳と、同じだ。
付き合いたいなんて、そんなこと、二神さんから言われる日が来るなんて夢にも思わなかったわけで、
私はよろろっと二神さんから離れるように後退した。背がすぐに助手席のドアにぶつかる。
「…美崎さん、大丈夫?」
「…あまり、大丈夫じゃないかもです」
私の答えに二神さんは、くすっと笑って表情を崩した。
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