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「貸してた傘が帰って来たんだ」
二神さんは私の質問に答えながら、事務所の戸締りチェックを済ませて、手動から警備会社の自動防犯システムに切り替える。
二神さんの黒い傘は大きくて目立つ方だ。今日の帰り、深谷さんのサプライズケーキを配っていた時にはデスクになかった。
私が帰ってから貸主が返しに来た? それともここへ単に移動させただけ?
黒傘でふと、あの日のことが頭を過った。
雨の中、外へ行こうとした時、二神さんの黒傘が無かったこと。
肩を濡らしながら戻って来た二神さんと遭遇した時のことを。
その直前に、私は榎木さんと雨についてのやり取りを庭の薔薇の前でしている。さっきもここへ来たとき、榎木さんがいた。
……もしかして、傘を貸していた相手は…榎木さんなんじゃないかな?
「美崎さん、戸締りチェック済んだ。行こうか」
「あ、はいっ!」
浮かぶ考えを一旦ストップさせて、私は二神さんの後を追った。
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