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「今来たばっかりなのに、もう帰るの?」
「はい。終電の時間なので…」
二神さんの顔をまともに見られず、顔を伏せたまま答える。
「終電にはまだ一時間以上あるだろ。それに、もう遅いから帰りは送るよ」
「…終電は、そうですけど…。でも一人で帰れます。二神さんはお仕事が…」
「終わった。というか、いつまでも切りがないから帰るよ。美崎さんからの差し入れを食べたら。ねえ、もしかして中身って…」
「……夜食、作りました。でも、あの…、味の保証は本当にないですからね!」
言い訳をするために、思わず顔を上げた。
そのため、ばっちり見てしまった。
二神さんが私の言葉を聞いた瞬間表情を緩め、ふわりと明るくなるところを。
「まさか、俺の為にわざわざ作って、持って来てくれたの?」
私の顔には、カッと熱が灯る。
トマトみたいに真っ赤になってしまったであろう顔を私は見られたくなくて、再びふいっと逸らして隠した。
「…お手伝い、任せてもらえなかったので。代わりに…」
手首は掴まれたままだった。
ぼそぼそと答えると、その私の手首を握る二神さんの手の力が、少し強まった。
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