*その時なんて来なければいい*

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「え?」 …あ。 人より早く上げられたのは、私が鼻を怪我したからだったんだ…。 残業させられなかった理由を今頃気がついた。 「鼻は、もう大丈夫です」 「そう。それは良かった。それと…」 珍しく二神さんの言葉が淀んだ。 「…?」 「いやなんでもない。…話って何?」 ここに現れた時は説教モードだった二神さんは、今は優しく微笑んでいた。 「こんなところに呼び出すなんてよっぽどだろ? 最近、恋乃香と話をする機会がなかったからね。俺への不満なら聞くよ」 「不満で呼び出したわけじゃないですけど…でも」 「でも?」 私の顔を覗き込む二神さんの口角は弧を描いている。けれど、目は、…真剣だ。 私の言葉、小さな様子一つ見落とさないと言いたげな鋭い瞳につい、長年の癖が出る。 「…話はいっぱいあります」 萎縮しながら答えた。 「うん、それで?」 私は手をぎゅっと握ると言葉を発した。 「まず…最初に話しておきます。高橋くんには食事に行けないとお断りの電話を入れました」 仕事が終わってここに来てすぐ、私はもらった名刺の番号に電話をかけた。 たぶん二次会に行ったであろう高橋くんは私からの着信に気付くことはなくて、留守電にメッセージを残していた。
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