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「自分の不甲斐なさに反省してる。でも、もう出してしまった手を引っ込めるつもりはない。恋乃香に触れてしまったんだ。今更なかったことには俺の方こそできないよ」
二神さんの言葉は魔法のようだ。
単純な私は一瞬で悲しい気持ちから嬉しい気持ちに変わった。
「私の、好きにしてもいい?」
「…もちろん」
二神さんはゆっくり席を立った。
「あ。もう帰りますか?」
壁掛け時計の針はもうすぐ夜の十一時を指そうとしていた。
明日はお互い仕事だ。二神さんが帰ろうとするのも当たり前のことなのだけれど…。
「…恋乃香?」
思わず、二神さんの袖を引っ張っていた。
「あと十分。ううん。…あと五分だけ、居てください…」
言いながら、仕事で疲れている二神さんを引き留めたら駄目だと後悔した。
持っていた袖をパッと放す。
「ごめんなさい。嘘です。早く帰ってゆっくり休ん…」
「そんな見え透いた嘘を吐かれたら、帰れない」
二神さんは小さく笑うと、そのまま私を抱きしめた。
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