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二神さんの目を見ることはできなくて、そそくさと滝野さんの横の自分のデスクに座る。
日中二神さんは普段と変わらずきびきびと仕事をこなし、特に態度に違いはなかった。
「昨日は、ごめん」
ただ勤務中には珍しく、帰りがけ私にプライベートなことで話しかけてきた。
不意打ち過ぎて、その日初めて私はまともに二神さんの目を見てしまった。
「今日も、遅くなるけど…夜に家に行ってもいい?」
二神さんの申し訳なさそうな視線が私の胸に刺さる。
思わず、視線を逸らした。
「…今日は、疲れているので早めに寝たいです」
「…そっか。分かった」
二神さんはしつこく言わずに、すぐに引いた。
後から鈍い痛みが胸に広がる。
夜と翌日の朝、二神さんからメールが届く。
(本当にごめん。ちゃんと埋め合わせしたい)
あの夜、榎木さんと会っていたのがプレジールなら、仕事のことでだと納得ができる。
けれど、私が見かけたのは二神さんのマンション。
会って、話をすれば、何で一緒だったのか分かる。
けど、なぜだろう。…知りたくない。
聞いて、平常心でいられる自信が私にはなかった。
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