マンホール・ガールの体温

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 中学二年生で迎えた十月は、やたら雨の多い、不愉快で暗い秋だった。  放課後、すでにすっかり暗くなった住宅街を傘も差さずに歩いていたので、制服のスカートが水を吸って足に貼りつき、気持ちが悪い。  まっすぐに伸びたアスファルトを、うつむきながら歩く。  やがて、左手にやや細い路地が見えた。これを通り過ぎて、五分も歩けば家につく。でも、帰りたくない。  ため息をついたとき、その路地の上に、妙なものが見えた。細いながらに、この路地にはマンホールがあるのだけど、その蓋が開いている。  暗いうえに長雨で増水しているだろうし、これでは危ない。なぜ開けっ放しにしてあるのだろう。いたずらだろうか。  蓋は、穴のすぐ横に置いてある。閉めた方がいいのだろうかと思いながら、ふらふらとそちらへ歩いて行った。  あと数歩で穴の中がのぞけるくらいまで近づいたとき、穴の中から、人間の頭が生えてきた。 「わっ!?」  思わず悲鳴を上げて後ずさる。 「え?」  頭の方もそんな声を上げながら、胸まで地上に出てきた。同級生くらいの女子だったけど、着ているのはセーラー服のようで、うちの制服とは違うデザインだった。セミロングの黒い髪がぐっしょり濡れているところを見ると、彼女も傘を差さないでいたらしい。まさか下水に濡れているわけではないだろう。 「な……何をしているんですか。そんなところで」 「……いろいろ」  下からこちらを見上げられているので、ねめつけられているような気分になる。そうでなくても異様な状況下で、彼女には奇妙な迫力があった。 「落ちたんですか」  おずおずとたずねる。 「いいえ。自分から降りていたの」 「そんなわけないでしょう」 「事情があるの。それならあなただって、どうして女の格好をしているの」  彼女は、僕のスカートを指さして言った。  姉が捨てようとしていたうちの中学の制服をこっそりと盗んで以来、着ているところを人に見られたのは、初めてだった。
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