マンホール・ガールを探して

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マンホール・ガールを探して

 男子グループによる僕へのいじめは、それからかなり控えめになった。  幾分過ごしやすくなった中学校を、けれど放課後になると、僕は毎日のように飛び出して、家とは別の方向へ向かった。  マンホール少女の制服は確か、僕の学校から駅を挟んで向こう側の中学校のものだった。  僕は息を切らせてその中学の校門までたどり着くと、呼吸を整えて、気配を消した。普通に突っ立っていて不審人物として噂にでもなったら、まずいと思ったからだ。  一週間もそんなことを続けてたら、ようやく、金曜日の放課後に、校門から出てくる彼女を見つけた。  周囲にはたくさんの生徒があふれているのに、誰一人彼女に目もくれようとしない。単に他人だからというのではなくて、おそらく完全に、彼女が見えていないのだ。  こうまで日常的にステルスを敢行しているのかと、僕は改めて驚いた。 「こんにちは」  声をかけると、彼女は、驚愕と怯えを同時に顔に浮かべて立ちすくんだ。  しかし、声の主が僕だと分かると、表情を緩ませた。拒絶される可能性も考えていたので、胸の中で安堵のため息をつく。 「どうしたの、こんなところで。すごくびっくりした」 「ごめん。少し話をしてもいい?」 「ええ。なら、ステルスを使って。目立つの、好きじゃないの」  二人して、気配を消して歩き出した。周りの通行人からは、注意どころか、意識さえもされない状態になる。まだ明るくても、他人だらけの状況ならばこれくらいはたやすい。 「この間はありがとう。君のおかげで、とても助かった」 「何もしてないけど」 「ううん、してくれたんだよ」 「やっぱり、男子の制服の方がしっくりくる」 「それはほっておいて。……ところでさ」 「なに?」 「どうして、君は死のうとしていたの?」  彼女が、ぴたりと足を止めた。後ろから来ていた見知らぬ生徒にあやうくぶつかりそうになる。 「どこか……、座れるところへ行きましょうか」
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