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彼女は、自分が弱い存在であることを隠さなかった。僕とは似たものどうしてあることを悟り合っているからなのか、あるいは自分を守るための殻を張る気力もないのか。
よりによって下水への入水などを試みた理由は、学校と家、どちらにあるのだろう。あるいは、両方だろうか。
この間はマンホールから生えている少女という奇妙さが先に立っていて気づかなかったけど、彼女はこうしてみると、ずいぶん小柄だった。
「あなたは立派だと思う。あの日、戦いに行ったのよね」
「そんな格好いいものじゃないけど、そうだとして、それは君のおかげだよ。君が死のうとした理由を、こんなに簡単に、本気で聞き出そうっていうわけじゃないんだ。ただ、思いとどまってほしいっていうだけで。それも、勝手なんだけど」
「ううん。なにがなんでも死にたいわけじゃないから。ただ私が死んでも、誰にも気づかれないんじゃないかっていう自信はついてきた。そうすると、死なない理由が少しずつ減ってきてるような気はする」
「君がどんなにステルスの腕を上げても、僕は君を見つける、さっきみたいに。君が死んだら、絶対に気づくよ。約束する。だから……」
彼女はうつむいて、小さく震えだした。泣いているのかと思ってのぞき込んだら、肩までの髪の陰に隠れて、両手で口元を抑えているが、口角が上がっているのが分かる。
「……笑ってるじゃないか」
「だって」
ぽつぽつと、小雨が降ってきた。
「もう、帰らなくちゃね」
「家は嫌なんじゃないの?」
「頑張ってみる。あなたもあの日、そうしたんでしょう?」
彼女は立ち上がり、スカートの裾を払った。彼女――彼女。
「ね、ねえ!」
「あなたって、急にトーンが変わるのが癖なの?」
「そ、それは悪かったけど。名前、君の名前を教えてくれないかな。僕は、石田ヒイロ」
「西坂レイナ」
「西坂さん、家まで送って行ったりしなくても大丈夫?」
「平気、すぐそこのアパートだから」
レイナは、道の向こうに見える住宅街を指さした。
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