風習

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 ええ、そうなのです。私の村の風習でした。亡くなった人を火葬にせず、その血肉を喰らう、という。  子どもの頃は、特に疑問には思っておりませんでした。死人の肉は不味くて、あまり好きではありませんでしたが、村人は、皆が皆、そのようにしておりましたので。  理由、ですか? 村人が死体を食べる理由?  建前上は死んだ人間を忘れぬよう、その魂が村人皆の血肉となって生き続けるよう、ということでした。はい、建前でございます。本当の理由は別のところにありました。  それが分かったのは、村に医者がやって来てからです。僻地医療と申しますのでしょうか。国の政策により、都会から家族でやって来た医師でした。その医師は、当然、村の風習を否定しました。死肉を喰らうのは道徳的にも、衛生的にも、そして法律的にも認められることではないと言うのです。医師は死んだ人間を火葬にするよう、村人たちを説得しました。村人たちは医師の説得を素直に聞き入れ、村の風習は途絶えたかに見えました。しかし……。  変事は、すぐに起こりました。  医師が死んだのです。家族ともども自殺をした、という風聞が、子ども心にも奇妙に思われました。何より奇妙だったのが、医師の葬儀が村主導で行なわれたことです。彼らは当然のごとく医師の葬儀を営み、彼とその家族の死肉を喰らいました。その時の、村人たちの嬉しそうな顔と言ったら。  そうです。村人が死体を食べる本当の理由は単純なものでした。  美味しいから。  ただそれだけだったのです。  その後、私は長じてから、村の風習に疑問を抱き、いろいろと改善しようと方策を巡らせてきました。  それが良くなかったのでしょう。私もまた村人たちに喰われ、いまはこうして……。
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